【情報発信】「コロナ以後」のいじめ・不登校などに関する要望と方策

以下の発表資料のPDF版を用意しました。こちらからダウンロードください。
https://stopijime.org/npo/wp-content/uploads/2020/06/20200625stopijimenavi_release.pdf

「コロナ以後」のいじめ・不登校などに関する要望と方策

ストップいじめ!ナビ/2020年6月25日

新型コロナウィルス感染症(COVID−19)の世界的蔓延により、教育現場では数ヶ月近くの「休校」を余儀なくされました。その後、徐々に休校処置は解除され、学校生活が本格的にスタートしています。

この出来事によって生じる、いくつかの懸念があります。休校による学業不安は広く注目されますが、学校再開後の問題もあります。カリキュラムを消化するための過剰指導ストレス、衛生に気を使いすぎることによる心理的疲労、いじめや不登校などつらい状況を生み出す環境悪化などです。

そこでこの声明では、特に「いじめ・不登校」の観点について、いくつかの要望と方策についてまとめました。多くの方々と共有することで、議論の材料となればと思います。

【学校に行きづらい子どもたちへの配慮】

・不登校の子どもたちに、「再登校圧力」を高めないで

コロナ以前から不登校状態にある子どもにも、配慮が必要です。全国一斉に学校に行かない状態が続いてきたからこそ、学校再開はすべての子どもがリセットされた機会ととらえ、「これまで学校に行かなかった・行けなかった子どもたち」に登校刺激を行い、学校復帰を促す動きもあります。ただし、当事者には大きなストレスであり、心の傷を増やしてしまいかねません。不登校に関する対応や支援は、今回のコロナとは別の議論が必要となります。

・「不登校傾向」にある子どもたちにも配慮を

また特に、「仮面登校」や「隠れ不登校」と呼ばれる、文科省の定義する「不登校」に当てはまらない、「不登校傾向にある子ども」への配慮も必要です。学校再開後しばらくは、そのような子どもたちにとってはとてもエネルギーを使う期間でもあります。コロナ休校をきっかけに、自分の学校ストレスに気づく子どももいます。学校再開について話し合い、場合によっては大人から子どもに、学校を休むことを促すなど、無理をしすぎない、温かいまなざしで見守ることが大事です。

※「隠れ不登校」:日本財団による調査結果 https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2018/20181212-6917.html

・長期休み明けに、不安のない気持ちで過ごせる環境を

以前より私たちは、「連休明けブルーにご用心」と、長期休み明けについて気を付けること・必要なことについてメッセージを配信してきました。連休明けの学校再開時は、子どものストレスが高まり、自殺件数も増加します。今回のコロナ禍では対応すべきことや論点は必ずしも同じものではありませんが、子どもたちのストレスや不安のための対応は、共通するものがあると想定しておくことが必要です。

※「連休明けブルーにご用心」:ストップいじめ!ナビ http://stopijime.jp/message.html

【“学校ストレス”を軽減させる対策】

・「遅れた勉強を取り戻す」を焦らないで

これまでに経験したことのない休校期間がゆえに、学校再開後、遅れた学びを取り戻そうとする動きが加速しています。ですが、教員や保護者が「勉強を取り戻す」ことで焦ること自体が、子どもにとってはストレスリスクとなり、授業の進捗から排除されてしまうケースも増えます。まずは状況を見極め、安心して生活できる場づくりに集中するなど、柔軟な対応をこころがけましょう。

・「感染症対策」は重要、でも「強要」しないよう注意して

学校再開後の感染症対策はとても重要です。しかし、保護者に対して細かな対応を求めたり、条件をクリアしないと指導されるといった、「過度な強要」と感じる事例も見受けられます。マスクの色や材質の指定、消毒液の持参や検温など、諸条件に当てはまらないと学校に来てはいけない、理不尽な指導を受けるといった事例も報告されています。教員にとっても、「全員の熱を測る」「放課後のたびに教員が全ての机を消毒する」などの過重労働も発生しています。科学的根拠と現実的なリソースとの折り合いをつける、「合理的な対処」の最善を考えていくことが重要です。

・コロナ対策で生まれるストレスの対応を

すでに、教室内では「フェイスシールド」や「座席机シールド」などで工夫をしながら授業が再開されています。試行錯誤を行うことに対しては理解できますが、「子どもの最善の利益」(子どもの権利条約)を考える視点が重要です。透明とはいえ、物理的に「境界」ができることへの心理的圧迫感、孤立感、視界の変化、シートの汚れなど、かえってストレスを生じる可能性もあります。加えて、今後、気温上昇による熱中症リスクなども生じます。一度取り組んだことを再検討し、無駄だと思うことをなくしていくことも必要なのではないでしょうか。

【いじめのリスク軽減のための対応】

・コロナ感染者への偏見をなくそう

コロナウィルスに感染した人に対する偏見や差別がすでに生じています。家族やその職場で感染者がいたというだけで、子どもたちが学校で避けられたり、いじられたりした事例がすでに報告されています。そのような状況を生まないようにするため、これまで以上に優先順位を上げて対応していくことが求められます。偏見や差別をしないためにも、科学的根拠に基づいた説明に加え、人道面へのケアが必要です。

・「菌」「ウィルス」など、感染症を模倣したいじめに、より一層の注意を

上記とも関連しますが、感染症のレトリックを模倣する行為は、対象となった子どもにスティグマを生じさせ、いじめを加速させるリスクがあります。既に相談窓口などでも、「コロナ」をもじったいじめが起こっていると報告がなされています。過去の震災などでも、その後に、いじりやいじめが増加している傾向にあったり、被災地の避難先でいじめにあったりする事例なども起こりました。対処として、コロナに関連した言葉遣いに気を付けること、メディアからの影響・誤解を解くこと、情報共有のためのコミュニケーションの時間を持つことなどが重要です。

※コロナ感染症に関する「社会的スティグマ」についての解説は、ユニセフ等が作成した資料を参考にしてください:「COVID-19に関する社会的スティグマの防止と対応のガイド」 https://www.unicef.or.jp/news/2020/0096.html

・学校内でストレス環境を作らないために

自粛対応などで、これまでコロナ禍における休校ストレスが注目されてきましたが、学校再開後は、学校内でストレス環境を作らないための対応策も重要です。特に、友達と会ったり遊んだりする機会が制限されてきた子どもたちにとっては、学校が再開されても、ソーシャルディスタンスで接近や会話ができないことなどが指摘されています。

また加えて、授業以外のイベントや運動機会の不足、教室以外の居場所の制限、休み時間の短縮、下校時に一緒に話しながら帰れない等、細かな制約が積み重なるなど、「コーピング手段」(コーピングとは、ストレスに対する対処法のこと)が失われることによって、ストレスを抱えたり解消したりする機会が奪われてしまう可能性もあります。

【コロナ禍だからこそ、学校の環境・ルール・制度を変えよう】

・コロナ対応による「新しいルール」に、合理的配慮を

感染症対応による分散登校やマスクやフェイスシールド、消毒作業、授業の取り組み方など、「新しい生活様式」が強調されていますが、「新しい生活様式」はあくまでトップダウンの提案の形であり、全ての人がそれに適応しなければならないというものではありません。重要なのは「合理的配慮」や「合理的対処」ができているか、常に点検し続ける体制です。

・コロナ災害だからこそ「校則見直し」を

これまでに運用されていた「校則や指導方法」をこの際に見直すことも必要です。例えばこれまで、「学校を休む場合、学校に直接、電話やメールをしてはならない」「休校届けを、登校する他の生徒に託し、担任に渡すこと」といった校則がありました。こうした対処はもともと、病時にあって非常に不合理なものでした。

マスクの色指定、制服の衣替えの時期指定、授業中に顔を仰いではならない、日焼け止めを持ってきてはならない、など、不合理な校則や理不尽な指導は、この時期だからこそより顕在化していきます。子どもだけでなく、教師の負担軽減などにもつなげるために、できることは多くあります。

・学校環境をよりよくする機会として

コロナ禍だからこそ、学校環境を安心・安全な空間に変えませんか。例えば、夏場の熱中症に備えて、飲み物の持参の許可。授業中の摂取の許可。学校に「飲み物コーナー」を設ける。授業終了後に水分補給タイムを設ける(あくまで一例)などです。これまでは、飲み物持参が許されないケースが多く、さらには今なお、「体育や部活中の水飲み禁止」などの事例も存在します。これらの対処を見直さなければ、集団的な熱中症を誘発することになってしまいます。

また、体育館での冷房設置率は3.2%にとどまっています。体育や部活を考えるならば、国・行政による思い切った予算措置、補助を促進することの政策課題に取り組まねばなりません。

・先生を増やす、学校以外の居場所を増やすための施策を

学校現場の教員の負担は以前から喫緊の課題でした。そしてコロナ禍における学校再開は、その状況をより顕在化させています。臨時教員だけでなく常勤教員を増やす、学校内外の居場所を増やす、既存の居場所の支援などの施策を推し進めるための予算措置が求められます。すみやかな対応促進のための議論が欠かせません。

◆作成:NPO法人ストップいじめ!ナビ
◆メッセージに関する問い合わせや取材依頼など https://stopijime.org/?page_id=231